ホーム企画展 松本の蝋人形館(浮世絵の中の工芸)

2013年4月2日~6月30日

松本の蝋人形館(浮世絵の中の工芸)

松本では毎年五月に「工芸の五月」というイベントが開催されます。すぐれた手わざのクラフト製品は松本の重要な地場産業で、松本にお越しになったお客様方から高い評価を受けています。

江戸時代にも優れた工芸作品が全国各地で製作されました。なかでも松本喜三郎らによる生人形と呼ばれる人形は人間そのものを再現したともいえる工芸品でした。江戸では見世物として人気を集め、歌川国芳や歌川豊国らが生人形の浮世絵を競作で描きました。

 当館の見世物のコレクションは多く『見世物研究』の著者、朝倉無声が収集した浮世絵や引札を貼り込んだ『観場画譜』によります。見世物の研究の第一人者であった無声は東洋文庫蔵『観物画譜』、西尾市立岩瀬文庫蔵『武江観場画譜』『摂陽観場画譜』という見世物の貼込帳を制作しました。『観場画譜』もそれらに匹敵するものです。

 最初に江戸後期の手妻(手品)の第一人者ともいうべき柳川一蝶斎の見世物小屋の外側の看板をご覧ください。一蝶斎は「うかれの蝶」という手妻を大成し、今日、藤山新太郎氏によって継承されています。「うかれの蝶」その他の手妻(てづま)芸を、浮世絵を通してご鑑賞いただければ幸いです。

 続いて竹沢藤次の独楽(こま)の芸をご覧に入れます。単なる曲芸ではなく、カラクリという江戸工芸の粋と融合した芸であることがわかります。曲馬その他、江戸の見世物小屋の芸をお楽しみいただいた後は、籠細工やギヤマン細工がございます。

 そして最後に松本喜三郎の至芸の作品の数々を描いた作品をご覧に入れます。喜三郎は熊本出身の細工人ですが、安政元年(1854)に大阪で生人形(いきにんぎょう)の異国人物などの見世物興行が好評を博し、翌安政二年二月十八日から江戸浅草奥山で竹田亀吉製作の大象の模型を加えて興行を開始したところ、大評判となりました。その時も国芳らによって浮世絵作品が制作されています。

 松本喜三郎は安政三年正月十五日にも生き人形の興行を行いますが、前年十月の安政大地震で劇場等が被災し、娯楽に飢えていた江戸の人に歓迎され、多くの浮世絵が出版されました。この時の招き看板は近江のお兼、中に入ると浅茅が原の一つ家の故事、為朝、粂の仙人、水滸伝、吉原の遊女、特に被災者の救済に当たった吉原の佐野槌屋の遊女黛の髪結い姿、忠臣蔵、鏡山といった盛り沢山な場面を見世物小屋そのまま、浮世絵で再現してみました。

さらに松本喜三郎の成功に刺激され、その年の三月からは深川八幡宮で大阪から呼び寄せられた大江忠兵衛の生人形が興行されました。こちらも多くの浮世絵が残され、忠兵衛作の安達が原の一つ家の鬼婆を、喜三郎作の一つ家の老婆と比較してご覧いただくのも、松本の蝋人形館ならではの趣向と存じます。

當世見立人形之内 粂の仙人 (朝倉無声旧蔵) 安政3年1月(1856)

當世見立人形之内 粂の仙人 (朝倉無声旧蔵) 安政3年1月(1856)

柳川一蝶斎 「うかれの蝶」 芳重筆 弘化4年(1947)

 柳川一蝶斎 「うかれの蝶」 芳重筆 弘化4年(1947)

竹沢藤次 独楽(こま)の芸   国芳 筆 

竹沢藤次 独楽(こま)の芸   国芳 筆

一田庄七郎 籠細工 関羽と周倉 国貞 筆 文政2年7月(1819)

一田庄七郎 籠細工 関羽と周倉 国貞 筆 文政2年7月(1819)

松本喜三郎 生人形 観世音霊験 国芳 筆 安政3年1月(1856)

松本喜三郎 生人形 観世音霊験 国芳 筆 安政3年1月(1856)

 

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